レモンと農薬 皮を剥いても意味がない?

 「サクレのアレは食べても大丈夫なんだろうか…」

サクレとはレモンの輪切りが乗っている氷菓のことです。
聞くところによると、外国産レモンの皮は防カビ剤まみれとのこと。

ところがこの薬は農薬ではなくポストハーベストとされ、更には食品添加物だという。

なんのこっちゃわからん!!

結局のところ、あのスライスの皮は食べてもいいの?悪いの??
小学生の頃から食べていて今更ですが、念のため調べてみました。




ポストハーベストと農薬の違い


防カビ剤は防黴(ぼうばい)剤とも言い、蜜柑を除く柑橘類とバナナに使用されます。
一般的な農薬とは違い、ポストハーベストとして使用されます。

ポストハーベストはポストハーベスト・アプリケーションの略です。
日本語に訳すと収穫後の薬剤使用になります。

農作物の輸入は一般的に海運、つまり船で日本に送られてきます。
輸送期間はおよそ数週間から二ヵ月にも及ぶ長い船旅です。

その間に野菜や果物が傷んでしまっては売り物になりません。
特に柑橘類はカビが繁殖しやすい植物です。

そこで、選果後にワックスと共に防カビ・防虫の目的で強力な薬剤が散布されます。
その中には果物のヘタを緑色に保つ「ヘタ落ち防止剤」なども含まれています。

こうした薬剤は保存料と同じ役割を果たすため、食品添加物に分類されるのです。

対して農薬は農作物の生育を高めるべく栽培中に畑に撒かれる薬のことを言います。
収穫後に行うポストハーベストとは使用するタイミングと用途が異なるのです。

輸入レモンが危険と言われる理由


日本が輸入作物に対して使用を認可しているのは

IMG(イマザリル)
OPP(オルトフェニルフェノール)
OPP-Na(オルトフェニルフェノールナトリウム)
TBZ(チアンベンダゾール)
DP(ジフェニル)

の5種類でしたが、

AZ(アゾキシストロピン)
FL(フルジオキソニル)
PY(ピリメタニル)

上記の3種類が追加されて合計8種類になりました。
そのうち代表的なものを以下に紹介します。

IMZ(イマザリル)

緑カビに効くイミダゾール系防カビ剤の一種で、やや水に溶けやすい特性があります。

この名称はベルギーの製薬会社(ヤンセンファーマ社)による商標です。
正式名はエニルコナゾール(Enilconazole)といいます。

日本国内では1955年から1969年まで農薬登録されていました。
その高い殺菌効果から、動物用の抗真菌薬としても利用されます。

その反面で毒性も強く、経口か吸入による致死量はわずか20gです。

薬剤に含まれる不純物の影響で、肝臓や甲状腺への発がん性もあります。
動物実験では赤ん坊の体重が増えにくいことや神経行動毒性が確認されました。

胎児だけでなく成人も長期の摂取で生殖能に悪影響を及ぼす可能性があります。
それを逆手に取ってか、米国では男性用の経口避妊薬として特許が取得されています。

OPP(オルトフェニルフェノール)

白カビを撃退する防カビ剤です。

1972年に農薬登録され、現在は食品添加物として扱われています。
甜菜の褐斑病を防ぎ、殺菌剤としても木材から工業製品まで広く活用されています。

その一例が割り箸や巻き簀の防腐剤、冷蔵庫のドアパッキンや衣料品の抗菌加工です。
かつては医薬品として内服用駆虫薬としても利用されていました。

しかしOPP-Naと並び発がん性があり、膀胱がんのリスクを高めます。
さらにカフェインと組み合わさることで発がん性物質が増加します。

そのため、OPPが使用されている輸入レモンの輪切りを紅茶に浮かべるのは危険です。

TBZ(チアンベンダゾール)

米国のメルク社が開発した緑カビを防ぐ薬剤で、食品に適用されています。
ただし残留基準値は食品ごとに異なります。

IMZと同じく動物用医薬品にも利用されているようです。
摂取しても90%は尿として排出されますが、致死量は20~30gと毒性は高いです。

催奇形性があるとされ、妊婦が摂取すると胎児に奇形が起こる危険性があります。

具体的には手足の外表奇形骨格異常ヘルニア水頭症などが確認されています。
骨格異常には助骨奇形口蓋裂脊髄癒着が挙げられます。

生物環境を破壊するので胎児の死亡率も上がります。

唯一の救いは発がん性がないことです。
と言っても今のところ確認されていないだけで、100%ないという確証はありません。

DP(ジフェニル)

ほかの薬剤がワックスと混ぜて使用されるのに対して、DPはやや特殊です。

この薬品を染みこませた紙を同梱すると、気化した後に果皮に溶けるのです。
使用される果物はグレープフルーツ、レモン、オレンジ類に限定されています。

すぐに気化して蒸発するので人体への影響は低いとされています。

AZ(アゾキシストロビン)

英国のゼネカ社によって開発された殺菌剤です。
日本では2013年に食品添加物に指定されました。

病原菌細胞の呼吸を阻害することで殺菌するため、人間も吸入すると危険です。

FL(フルジオキソニル)

スイスで誕生したフェニルピロール系殺菌剤です。
従来の殺菌剤が菌に効かなくなってきたことで開発されました。

日本では2011年に食品添加物に指定されています。

新薬のため未だ未知の部分も多いです。
現状では眼刺激性皮膚刺激性変異原性の可能性が示唆されています。


残留農薬にも注意


総括すると、防カビ剤の毒性は

アレルギー
遺伝子損傷性
腎臓・肝臓障害
生殖毒性
染色体異常
発がん性
変異原性

といった体質や骨格を変質させる恐ろしいものばかりです。

生殖毒性は催奇形性や精子量の低下などをもたらし、TBZとIMZが引き金になります。
発がん性が顕著なのはOPPです。

とは言え、これらには動物実験以外の実例はありません。
残留農薬には基準値があり、一度に数百個は食べないと直ちに影響は出ないためです。

ただし、栽培中にも数々の農薬が使用されていることを忘れてはいけません。

外国産レモンには防カビ剤の前に2.4-Ⅾを含む数々の殺虫剤が付着しています。
2.4-Dは殺菌作用のある植物ホルモンですが、その実態は枯葉剤の主成分です。

かつてベトナム戦争で悪用され、現在も除草剤に利用される発がん性をもつ農薬です。

その他の防虫剤はピペロニルブトキシドクロルピリホスイミダクロプリドです。
クロルピリホスは広く利用されているため、果皮に残っている可能性が高いです。

そこにポストハーベストの薬剤が上乗せされ、体内に有害物質が蓄積されます。


外国産レモンが出荷されるまで


では、具体的にどのように薬剤が塗られているのでしょうか。

レモンは収穫後、色づき具合により分類されて冷蔵の貯蔵庫で保存されます。
この冷蔵庫に出し入れする前後にポストハーベストが施されています。

小若順一著『新・食べるな、危険!』によると、90年代のサンキスト工場では

1 水洗い
2 塩素剤のプールに浸ける
3 引き上げてアルカリ系の洗剤で洗う
4 スプリンクラーで薬剤を噴き掛ける

といった工程でレモンが処理されていたようです。
最後に暫く保存した後、防カビ剤を混ぜたワックスが塗られ出荷されます。

防カビ剤は、1~2か月ものあいだ効果を持続させなければなりません。
ただし日本に着く頃には基準値の1~2ppmまで薄まっている必要があります。

そこで、輸送時間や気温などから逆算して濃度を設定しています。

よく使用されるものは水溶性のOPPナトリウム塩で、次いでTBZやIMZです。
しかもアメリカ産はTBZとFL、チリ産はIMZ・TBZ・FLなど数種類を併用しています。

一番多い組み合わせがOPPとIMZで、ともかく過半数が薬剤まみれです。

例外はニュージーランド産で、ノンケミカルレモンの名で販売されています。
輸入レモンを購入する時は産地など、表示をよく確認しましょう。

>> ノンケミカルレモンって? 皮は食べても大丈夫なの??


なぜ認可されているのか


日本では防カビ剤の使用は禁止されています。
海外でも国内流通用の果物にIMZなどを使用することは認められていません。

つまり、アメリカ国内で購入したサンキストレモンは皮ごと食べることができます。
ポストハーベストが許可されているのは、あくまで輸出用のみです。

何故かというと、収穫から外国(日本)に届くまでに数か月も間が空くからです。
防腐処理をしなければ、3割ものレモンが輸送中に傷んでしまうと言われています。

それとは別に、政治的な問題も絡んでいます。

1974年に米国産グレープフルーツがすべて廃棄処分される出来事がありました。
日本では既に使用が禁止されていたOPPとTBZが検出されたためです。

そこで違法添加物として摘発したところ、アメリカが激怒。
大統領が訪日し、直々にOPPの使用許可を迫る事態にまで発展したのです。

その結果として77年にOPP、翌78年にTBZが「食品添加物」として認可されました。
いわゆる貿易摩擦ですね。

しかしながら、日本人も安さに惹かれて輸入レモンを購入しています。
毎日食べるものでなしと、安全性より価格を重視する人が多いのもまた事実なのです。

防カビ剤不使用はもっと危険?


防カビ剤はレモンの見た目だけでなく、人の健康を守るためにも必要なものです。

カビの菌糸は果肉部分にまで及ぶため、薬剤も奥まで浸透させなくてはなりません。
それも1か月以上の船旅の間に効果が薄まらないように高濃度で使用されます。

それらは畑で撒く農薬と違い、日光や作物の代謝で自然分解することもありません。
そのため表皮の残留濃度が高くなります。

ただ、その残留濃度よりもカビ毒の方が恐ろしいのです。

特にアフラトキシンマイコトキシン自然界最恐の発がん性物質と言われています。
これらは農作物によく付くアスペルギルス属やフザリウム属のカビから生成されます。

かつて英国の農場で七面鳥が全滅する被害があり、その原因がアフラトキシンでした。

穀物は飼料にもなるため、トウモロコシやナッツ・豆類にも防カビ剤は欠かせません。
それでもカビを完全に防げるわけではなく、耐性を持った菌も出てきます。

それでより強力な薬剤が使用されるようになりました。
防カビ剤も危険ですが、水道水の塩素剤のように致し方ない面もあるのです。

気にしすぎも良くない


当然ながら、防カビ剤にも残留基準値が設けられています。
日本はその規定が厳しく、一生食べ続けても害が起こらない値に設定されています。

定期的に自治体ごとのサンプリング検査も行われています。
輸出側も国際水準の管理のもとで生産していると表明しています。

上記を信じれば、代謝が追い付かない量を摂取しない限り即座に健康被害は出ません。

少なくともカビ毒のように一つ食べただけで命に係わることはないでしょう。
事実、今のところはそうした事態は報じられていません。

ただし化学物質は体内に蓄積しやすいため、常食するなら国産がおすすめです。

残留農薬も摂り続けると数十年後に農薬中毒症状を引き起こす可能性があります。
具体的には目の痛みや吐き気・嘔吐、発熱、肌荒れなどが起こります。

防カビ剤は至る所で使用されており、レモンだけを避けても意味はありません。

だからこそあちこちで低農薬や無添加が称揚されているのです。
しかし気にしすぎると食事を摂るのが億劫になり、心身に負担を掛けます。

とりあえずは十分に洗うことと、皮の剥き方に気を付けてください。

>> レモンの皮の農薬の落とし方 ※ただし国産に限る

剥き方ですが、柑橘類の皮に爪を立てたり力を加えると汁が出てきますよね。
あれは、皮の中にある油胞が弾けて飛び出た精油(香り成分)です。

それと共に防カビ剤も溶け出すので、その汁が付いた手で果肉に触れないでください。
汁の付着を極力防ぐには、包丁でカットしてから果肉を引きはがす方法が最適です。

サクレのレモンは皮ごと食べる?食べない?


最後に冒頭の話題に戻ると、私は「食べる派」です。

ここまで防カビ剤の脅威を書き連ねておいてなんですが、稀にしか食べませんからね。
それに農薬のことを言い出したらレモンに限らずキリがありません。

ネットでも「皮の苦みが癖になる」という声が多く、残さず食べる人が多い模様。

食べるつもりはなくても、スライスが凍っているため少し突くと砕けてしまいます。
小片になった皮はレモンピールと変わりなく、それほど苦味は感じられません。

むしろ甘味の強い氷の部分に対して、丁度良いアクセントになります。

それでも苦手という人は、果肉の淵に沿ってなぞるように突けば皮と分離できます。
その際にスプーンよりもアイス用の木べらを使うとよりきれいに分かれますよ。

まとめ


✔ 輸入レモンは日本に到着するまで傷まないように防カビ剤が塗られている。

✔ 柑橘類はカビに弱いため、長距離輸送になる輸入品には使わざるを得ない。

✔ 防カビ剤による体調異常は、一日に数百個単位で食べない限り表れない。

✔ ただし化学物質は体内に蓄積するため、毎日食べるなら無農薬を推奨。

✔ 輸入レモンは皮を使わず、よく洗ってから絞り汁のみ利用しよう。