住友化学×農研機構が開発!幸の栖(ICS6号)の特徴・栽培法・市場展望まとめ

2024年、新潟県の米づくりにおいて大きな転換点を迎えた水稲品種――それが「幸の栖(さちのすみか)」です。
この品種は、農研機構と住友化学が共同開発した水稲の多収性品種で、正式な品種名は「ICS6号」。住友化学の商標として「幸の栖」の名が付けられました。

この記事では、幸の栖(ICS6号)の特徴、栽培のポイント、今後の展望、そして業界全体への影響について詳しくご紹介します。

なぜ「幸の栖」が注目されているのか?


これまで、新潟県の業務用米には「つくばSD1号」が主に使われていました。しかし、「つくばSD1号」は倒伏しにくく収量も期待できるものの、平均収量の伸び悩み穂数・もみ数の確保に課題がありました。

そうした課題に対応すべく、JA新潟かがやきは2024年産から「幸の栖」への切り替えを決定。その理由は以下のような「幸の栖」の特徴にあります。

幸の栖(ICS6号)の特徴とは?


1. 倒伏に強く、安定した収穫が可能


  • 短稈・太茎構造により、風などで稲が倒れるリスクが少ない。
  • 「コシヒカリ」よりも倒伏しにくく、機械収穫にも適応

2. 収穫適期が長く、刈り遅れても品質を保持


  • 胴割れしにくい性質を持ち、タイミングを逃しても品質を保てます。
  • 作業分散・労働軽減にもつながる大きなメリット。

3. 粒が大きく、高収量


  • 千粒重は24~25gで、「コシヒカリ」よりも粒が大きく見栄えも良好。
  • 多収栽培が可能で、生産性の高さが農家にとって魅力。

4. 病気への耐性


  • イネの大敵であるイネ縞葉枯病に対する耐性を持ち、安心して栽培可能。

5. 市場価格の安定


  • 価格の変動が少なく、農家にとって収益の安定化が期待できる。
  • 外食・中食産業での業務用米の需要が拡大している。

栽培管理のポイント


「幸の栖」は高収量を目指す一方で、適切な管理が品質を左右します。2025年産の栽培説明会では、以下の点が強調されました。

  • 作土深15cmの確保:根張りを強くし、倒伏や干ばつに強くする。
  • 中干しの適期実施:地力バランスを整え、倒伏防止と品質向上に貢献。
  • 出穂前後の葉色管理:養分の過不足を防ぎ、良質な玄米を確保。

現在の導入状況と今後の展望


2024年の時点で、新潟県内ではすでに約130ヘクタールで幸の栖が栽培されており、今後さらなる拡大が期待されています。JA福井県でも試験導入が進行中。東北地域(例:山形県)でも晩生品種としての可能性が注目されています。

さらに、イノチオプラントケア株式会社も作付けを推進しており、企業・農協・生産者が一体となった取り組みが始まっています。

幸の栖はなぜ業務用米に向いているのか?


飲食業界やコンビニ業界では、安定供給と品質の両立が求められています。幸の栖はその点で大きなアドバンテージを持っています。

住友化学は2017年からセブン‐イレブンに業務用米を供給し始め、2020年までに供給量を15倍に増加させる計画を発表。コンビニのおにぎりや弁当に使われる米の安定供給が目的でした。

供給の仕組み


  1. 住友化学が契約農家に種子を提供。
  2. 生産された米を住友化学が買い取り。
  3. 卸業者を通じて大手小売・外食チェーンに供給。

MiRISE事業による強力なバックアップ


幸の栖は、住友化学の「MiRISE(ミライズ)」事業の一環として開発された品種です。このプロジェクトでは、以下のような一貫したサポート体制が敷かれています。

  • 自然交配による品種開発(遺伝子組み換えではない)
  • 契約栽培による生産者支援
  • 業務用途向けに特化した品種ラインアップ
  • 販売先の確保による全量買い取り体制

また、住友化学は誤認情報への公式対応も行っており、自社品種が遺伝子組み換えでもF1種でもないことを明確に否定。安全性と信頼性を両立させた体制づくりを進めています。

「つくばSD1号」との違い


特性 つくばSD1号 幸の栖(ICS6号)
稈長・太さ 短稈で倒伏しづらい より短稈で太茎、さらに倒伏に強い
収量 多収性だが平均値に課題あり 安定的に高収量が期待できる
病害耐性 明記なし イネ縞葉枯病に耐性
市場性 限定的 外食・輸出向けの高需要あり
管理のしやすさ 一般的 収穫適期が長く作業分散しやすい

まとめ:新たな時代の業務用米「幸の栖」


「幸の栖(ICS6号)」は、収量・品質・安定性の三拍子が揃った注目の水稲品種です。とくに、倒伏のしにくさと収穫適期の長さ、そして業務用途への適応力は、今後の米づくりの可能性を大きく広げてくれます。

新潟県をはじめとする先進地域での導入が進む中、全国への普及と外食市場・輸出市場での活用が期待される「幸の栖」。日本の米産業の未来を支える存在になるかもしれません。

参考情報:

  • 農研機構 × 住友化学共同開発
  • 住友化学「MiRISE」事業
  • JA新潟かがやき・イノチオプラントケアの取り組み
  • セブンイレブンとの業務提携事例